マザーツリー
世界を驚嘆させた森林生態学者が明かす! 「樹木たちの会話」を支えてきた、地面の下の「宇宙」とは──。
おすすめポイント
- ☑木々の壮大なつながり
- ☑自然の凄さを感じる
WWWとかいて「ウッド・ワイド・ウェブ」こうネイチャーが名付けた森林の樹木同士のつながり、それらの木どうしのつながりをつくりだしているのは菌根菌と言われる小さい菌たち。しかし、それはシロナガスクジラよりも大きな世界最大の生き物ともいわれるほど大きなかたまりとして地中に存在するものもあるという。 従来の林野庁(林政局)のやりかたを真っ向から否定する実験結果をだし、痛烈な批判を受けながら研究を続けたスザンヌ・シマード。 これは彼女の研究人生だけでなく、母親として、家族の一員として、社会の一員としてのストーリー。
マザーツリー
1 森のなかの幽霊
雄大な森の木々の間を縫って斜面を登る高揚感は、クマや幽霊に対する恐怖よりもずっと強烈だった。
亜高山モミを伐採した後に、亜高山モミを植えないというのは変だが、トウヒの方が材木としての価値が高い。
木目が細かく、腐りにくく、高級木材としてみんなが欲しがる。
成熟した亜高山モミから取れる木材は、弱いし質が悪い。
2 人力で木を伐る
メーブル湖に休暇中にキャンプをして、おじいちゃんたちが山に木を切りに行く。
残しておきたい木も切られてしまう苦い思いをした少女時代。
3 日照り
ロデオ競技に出場する弟のケリー
菌根菌は、植物と、生きるか死ぬかの関係を構築する、とある。 この関係がなければ、菌も植物も死んでしまうのだ。 私が見つけた奇妙な3つのきのこはどれも、菌根菌の子実体で、 土壌から水と養分を集め、それと引き換えに、パートナーである植物が光合成によって産生した糖分をもらうのである。
相互交換。相利共生。
p.99
植物にとってはより多くの根を生やすよりもセルロースやリグニンがなく、細胞壁の薄い菌類に頼ったほうが効率が良い。
菌根菌の菌糸は、植物の根の細胞と細胞の間にやわらかい細胞壁をもっと厚い植物の細胞壁におしつけるようにして伸びる。
もしかしたら、最も過酷な環境で木が集団で生えるのには 菌類が関係しているのかもしれない。 そして元気のない人工林を救える可能性がある可能性が高い。と気づいた。
4 木の上で
草につくアーバスキュラー菌根菌は根の細胞の内側にしか育たず、外から見ることはできない。
コック帽のように木や低木の根の細胞の外側を覆うように育つ外生菌根菌とは違う。
ハイイログマとばったり出会う。 しかし、目が悪いハイイログマから木に登ってじっと待つことで逃れる。
5 土を殺す
職を失い、求職中にアラン研究員のもとでバイトをすることになった。
1970年代にモンサント社が、針葉樹の苗生には影響せずに自生植物だけを枯らす除草剤、グリホサートを発明していたのだ。 ラウンドアップは大人気になり、多くの人が庭や菜園に平気で使うようになっていた。
p.143
そこで散布する除草剤の量の違いによってどれくらい効果的いに自生植物を枯らし、苗生を競合から開放して生育できるかの実験を行った。
結果、最大濃度の除草剤が最も効率よく自生植物をからしたが、それが苗木にとってよいかはわからなかった。
6 ハンノキの湿原
空気中の窒素を土壌中に固定することができるハンノキとその根に住むフランキアという細菌がいる。
ハンノキの樹木とパインの苗木が生えている森林において、ハンノキを切ると、一時的にパインの苗木は成長を早める。 これによって多くの人はハンノキがやはり成長を阻害していたんだとみてしまうかもしれない。 しかし、実際はこの成長はずっとは続かない。
科学的にはハンノキが刈られることによって空気中の窒素があらたに土壌中に固定されなくなり、枯れた木の根や幹が分解されると、窒素以外の栄養分(リンや硫黄、カルシウムなど)が一時的に放出される。
木の残骸が分解されるに連れてハンノキのタンパク質とDNAは無機化が進み、アンモニアと硝酸塩からなる無機態窒素として放出される。 無機態窒素は土壌水分に溶けてパインの苗木が成長に使う。 しかし、1年ほど立つと、ハンノキは完全に分解されて、無機化された窒素もパインの苗木や他の植物の成長に使われたり、微生物に消費されたり、地下水に滲み出したりしてなくなってしまう。
こうして土壌中の窒素の総量はハンノキが生えているときに比べて激減する。
そして、ついにスウェーデン人の研究者、クリスティーナ・アーネブラントの論文によると、ハンノキとパインに共通する種類の菌根菌がハンノキをパインにつなげて、窒素を直接運んでいることを発見した。
7 喧嘩
ついに、論文を発表する機会を得た。
観客はみなキャベツだと思え、といった父の言葉を思い出した。 私はずらりと並んだキャベツを見回し、(中略)
私のスライドをみて頷いているキャベツもいた。
p.220-221
頷いているキャベツもいた。という文章が秀逸。
アメリカではポテトではなくキャベツなのだろうか?
8 放射能
新しく放射性同位体炭素C14を使ったパイプの実験をした。
ケリーが死んだ。
9 お互いさま
修正した論文は、1997年8月号の「ネイチャー」誌の表紙を飾る特集記事として掲載された。
10 石に絵を描く
インタビューで 「森林監督官は一生懸命やっているけど、石に絵を描くいほうがまだマシよ」
とオフレコで行った発言が掲載されてしまって物議を醸した。
11 ミス・シラカバ
これが彼女の別名。
娘のハナが生まれた。
現地視察で森林官にボロクソ言われる。
どうしたら、森をめちゃくちゃにすることなく、若い木々の成長を助けることができるのだろう?
p.379
森林の競争と共生をたとえにして、実生活の苦悩をいう、言い回しが素敵すぎる。
12 片道9時間
准教授としての別居生活
13 コア・サンプリング
がんの診断
14 誕生日
Ted for Kidsへの動画が7万回の再生と大成功し、論文の引用回数も1,000回を超える幸せ
15 バトンを渡す
産卵中のサケを食べるクマは1日150頭のサケを森に運び、これがおおきなタンパク質や栄養分の森への供給となっている。
サケの身は木が必要とする窒素の3/4を提供できる。
おわりに
いまはマザーツリープロジェクトを始めている。
木を一本見つけて、自分がその木のネットワークにつながり、それが周りの木々とも繋がっていることを想像してほしい。