食べる経済学
食べ物は踊る、未来が変わる。食卓からみる資本主義、貧富の差、グローバリズム、SDGs、環境問題…。
おすすめポイント
- ☑普段、結び付かない食を経済学と絡めた
食べることが経済に与える影響について環境問題、貧困問題などと絡めて考えた本。
食べる経済学
食料経済学とは
- 食料を「作る(生産)」、「売買する(市場)」、「食べる(消費)」に分けることができ、お互いが複雑に関係しあっています。そのような複雑な関係を紐解くにあたり、誰にとっても馴染みのある「食べる」を中心に据えて、そこっから全体の関係について考察していくため、本書を「食べる経済学」と呼ぶことにしました。
「食べる」は経済学の需要供給の理論が当てはまりにくい。
→食品の所得弾力性^1 や自己価格弾力性^2 は1より小さくなる傾向がある
食べるといった行為は娯楽と異なり必要不可欠であるため
農業は価格が環境や政治的な思惑で変動しやすいため安定収入が難しい。
また、需要の増減があまり見られないため「豊作貧乏」や「貧作増収^3」も起こりうる
栽培期間がやや長いためJust in time 方式で生産できず、需要と供給の間に不確かさが生じやすい。
栄養不足と肥満を同時に減らすことはできない
肥満の人が食べ過ぎている分、または先進国の食品ロスを途上国の食糧不足分に回すことができたらいいのではといった考えは一見素晴らしい考えのように思えるが実現は難しい。
市場で食料が供給されるということは、需要があるからであって、その需要は肥満の人が余分に食べる分で担われている。つまり、彼らが食べなくなった場合は需要が減少するため供給も減る。
このため、食料の量が減るため栄養不足の人たちに贈る食糧はなくなってしまう。
畜産の環境負荷が大きい理由は4つ
- 温室効果ガス
- 大漁の水を使うこと
- 排泄物が大量に出ること
である。
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温室効果ガス 温室効果ガスは農業の中で畜産由来が最も多い。特に牛が餌を消化・発酵する際に出るメタンは二酸化炭素に比べて28倍の温室効果があるため、影響が大きい。 (しかし、大気中にとどまる期間も10年と二酸化炭素の100分の1と短い。 このため、排出量を抑えるだけで温室効果緩和が早い段階で期待できる)
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大量の水 日本ではあまり馴染みがないが、世界的な水不足は人口増加に伴い深刻さを増している。推定では、2100年には1人当たりの水利用量が17%も減少するという可能性もある。 畜産では施設の掃除や飲み水だけでなく、飼料を育てるための水も含まれるためkcalあたりでは穀物の20倍の水が必要となる。
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大量の排泄物 乳用牛の1日当たりの平均糞量は45.5kg、肉用牛は20kg、豚が2.1㎏である。
人間の大人はだいたい0.25㎏程度であることからもわかるとおりに圧倒的に多い。
したがって、そこまで畜産が盛んでないうえ、人口の多い日本でさえも人間が出す排泄物よりも家畜が出す排せつ物のほうが総量で40%ほど多いというから驚きだ。
畜産の環境負荷を止められないのは無料の資源を使っているから
畜産が非常に環境負荷が高いとわかっていてもそれを阻止するのが難しい理由の1つに資源が無料であることがあげられる。
これは利用している(負荷をかけている資源)が空気や水といった公共性が高くだれでも利用できる。 そして、利用を止めることの難しい資源であるからだ。
法的な規制がない限りは、使ったもんがちであって、逆に使わずに他の同業者と戦うことはできない。
遺伝子組み換えではない遺伝子操作
ゲノム編集は作物がすでに持っている遺伝子を一部変異させることで目的の形質を得る技術になる。
実用化がされているものとしてオレイン酸をたくさん含む大豆がある。
日本では
- GABA(血圧を抑える効果のあるガンマ・アミノ酸)を多く含むトマト
- 芽に含まれる天然毒素を大幅に減らしたジャガイモ
- 病害中や干ばつに強く収量を増やしたイネ
- 食べられる筋肉部分を増やした真鯛(マッスルマダイ)
- 激しく泳ぎ回らなくて養殖しやすいマグロなどの研究開発が進められている。
他にも細胞培養による肉の研究も開発が盛んになっている。これが実用化されると食料に必要な農地が現在の1/4にまでおさえらえれるという。
昆虫食はいまだに抵抗を持つ人も多いが、人間が食べるのではなく肥料用の昆虫や飼料用の昆虫食も普及しつつある。
環境負荷を小さくし、健康を促すナッジとして面白いのは、スーパーで利用するカートを半分に区切って野菜・果物を入れる部分とそれ以外を入れる部分とに分ける実験があった。これによって2倍の野菜・果物を買い総支払額も25%増えたという。