樹は語る

著者: 清和研二
読んだ日: ()
本の価格: 2640
出版時期: 2015年07月
Amazon楽天上記のリンクはアフェリエイトリンクになります
Cover Image for 樹は語る
老樹が語る、いのちを繋ぐ木々の気持ちー森をつくる樹木は、さまざまな樹種の木々に囲まれてどのように暮らし、次世代を育てているのか。発芽から芽生えの育ち、他の樹や病気との攻防、花を咲かせ花粉を運ばせ、種子を蒔く戦略まで、80点を超える緻密なイラストで紹介する。長年にわたって北海道、東北の森で研究を続けてきた著者が語る、落葉樹葉樹の生活史。
楽天Booksより引用

おすすめポイント

  • 清和さんが語る樹木のこと。
  • これほどまでに興味深く樹を語れる?

樹は語っている。ただ、ぼくらのほとんどがそれを受け取る感受性がないだけ。 そこに通訳者、インタプレターがいれば樹が語っていることがありありと見えてくる。樹は語る。 あとは僕らがその声に耳を傾けるだけ。準備はできたか? できていなくても大丈夫、この本をよめば自ずと聞こえてくるはず…

樹は語る

bg h:60% right:33%

オニグルミ

ヘテロダイコガミーを見せる。 これは個体ごとに雄花が先に咲くか雌花が先に咲くかを異ならせることで同一個体同士の受粉を防ぐ方法。 オニグルミは雄性、雌性先熟の両方が見られる。

これはカエデ科やクルミ科でよく見られる特性

イタヤカエデ

葉が開く前に花を咲かせる。 葉が開いてしまうと、葉の下に隠れた花が目立たなくなってしまい、花粉を媒介してくれる昆虫に気づいてもらえなくなってしまうからだ。

しかし、春先に一斉に葉を開かせる他の植物との光の奪い合いにはこのままでは負けてしまう。

そのため、ある程度大人の木になるまでは、花を咲かせることはなく毎年すぐに葉を開いて栄養を作って成長を続けていくのだ。

そして、おとなになってからはこれからの世代のことを考える方向にシフトしていく。まるで人間のようだ。

こうして春先に、でも霜が降りて虫さんが死んでしまうほど早くならないように、暖かくなり始めた麗らかな季節に花を咲かせるのだ。

イタヤカエデもオニグルミとおなじでヘテロダイコガミーを持っている。

ウワミズザクラ

ウワミズザクラはジャンゼン=コンネル仮説に当てはまる。 つまり、親木の近くでは子どもがうまく成長できない。 このため、種子散布は鳥などに頼ってできる限り遠くに飛ばしてもらうことが目的となるのだ。

ジャンゼン=コンネル仮説の当てはまる理由は複雑だが、一つには、親木が黒斑病に感染した葉を落とすと、その下にあった稚樹にも写ってしまう。 まだ抵抗力の弱い稚樹はそうした病気でやられてしまうという流れだ。

サクラの仲間はこうした特性によく当てはまるため、森の中では一箇所にまとまることなくポツポツと生えるのだ。 春になってサクラが咲く時期になると新緑の中の白やピンク色の場所からこのことがよくわかる。

ミズキ

ミズキの材は東北の方ではコマやコケシに使われる。 色が綺麗で絵付きが良いという。

コマの軸はもっと固くてすり減りにくいイタヤカエデなどの材が使われることが多い。

ミズキもウワミズと同じでジャンゼン=コンネル仮説があてはまる。

スギ林はアーバスキュラー菌根菌の場所であるため、外生菌根菌と共生関係のブナやミズナラ、コナラなどには厳しい場所でミズキやカエデ類、サクラ類、タラノキなどが生えやすい。

ホオノキ

ホオノキのギャップ探知能力

ホオノキは遷移初期種で、林の中で土砂崩れや風による倒木などがあってぽっかり空が開けた所(ギャップ)ができるとそこにあるホオノキの種子は真っ先に発芽して上へ上へと伸びていく。

このギャップができたことを感知するトリガーは種によって違う。

たとえば、光が差し込んだことを感知するものもある(シラカンバなど)

しかし、朴の木の場合は「温度」に頼っている。

正確に言えば「温度差」かもしれない。

この理由は反応できる深度の違いにある。

光に反応する(赤色光/遠赤色光比)に頼っていると1cm以上下に埋まっているものは感知することができない。 つぎに雨などによって上の土砂が流されたときに発芽できるかもしれないが、そのときにはギャップはもう埋まっているかもしれない。

しかし、変温に頼ると地中5~10cmのところに埋められていてもギャップができて光が差し込むと感知することができる。 昼夜の寒暖差は土の深くにまでシグナルを送ってくれるのだ。

大きなマグノリアフラワー

ホオノキの大きくて香り高い花は見た目によらず、繊細な咲き方をするという話。

1億年前からこの姿を残しているモクレン科の花がすでに完成させた優れたシステムを持っていることには本当に脱帽しか無い。

その咲き方は「雌性先熟タイプ」である。

花の中にある雄しべと雌しべのうち、雌しべの方が早く熟すのだ。

こうして雌雄の成熟時期をずらすことで自分の花粉で受粉してしまう自家受粉を防いでいる。

ホオノキの花はいったいどうやって咲くのか。

まず、花芽が大きく膨らみはじめ外側の大きな芽鱗を落とす。 しだいに、薄ピンクの3枚の萼片の中から大きな白い花びらが顔を出す。 そして花びらの先端が少し開き中が少しだけ見えるようになる。 中をむりやりのぞきこむと先の尖った太い円筒状の軸の上のほうに雌しべが螺旋状に並んでいる。

p.216

先端が反り返っているので花粉を受け取る準備が整っているようだ。 しかし、雄しべはまだ開いていない。 雌しべの下で軸にへばりついている。

p.216

花の寿命は大きさの割にあっけないほど短く、2日ほどで落ちてしまう。

また、それだけでなく、同じ木の花が一斉に咲くこともない。 蕾のものから満開、枯れかかっているものまでさまざまで、だいたい5月の中頃から1ヶ月かけてつぎつぎに咲いていく。

こうして樹冠上でも同じ個体での自家受粉を防いでいるのだ。

しかし、これほどまでに自家受粉を防ごうとしているが、実際は自家受粉の割合が高い。

理由としてはミツを出さないため、マルハナバチなどの媒介者にとって魅力的ではないのだ。

石田清さんの実験によると8~9割が自家受粉という。

また、京都大学の大学院生の松木悠さんによると甲虫類が、甘い芳香で呼び寄せられて花粉を運んでいるという。

花粉を食べに来たハナムグリは最大で1,100mも離れたホオノキに花粉を運んでいることを明らかにしたという。

えもいわれぬ不気味な果実

ホオノキの果実は大きく、一つの花の雌しべ1つ1つが袋となって集合果を形成する。

受粉に成功したものが多いと袋の中に1,2つの果実が入っているが、年によっては空っぽのときもある。

種子の色は茜色。 中からは朱色の鮮やかな種子が出てくる。

とても奇妙で秋の山の中で見つけるとびっくりする。

「ボトリ」と落ちてくるときもホオノキらしい豪快さがある。

よく萌芽するホオノキとツルアジサイ

ホオノキは個体が元気なうちも萌芽(ほうが)する。

株の根本から新しい小さな株が出てきて、年を経るごとに大きくなって何本もの樹が同じ場所から生えているかのようになるのだ。

そして、そこにツルアジサイやイワガラミが絡まってくる。