生皮 あるセクシャルハラスメントの光景
動物病院の看護師で、物を書くことが好きな九重咲歩は、小説講座の人気講師・月島光一から才能の萌芽を認められ、教室内で特別扱いされていた。しかし月島による咲歩への執着はエスカレートし、肉体関係を迫るほどにまで歪んでいくー。7年後、何人もの受講生を作家デビューさせた月島は教え子たちから慕われ、マスコミからも注目を浴びはじめるなか、咲歩はみずからの性被害を告発する決意をする。なぜセクハラは起きたのか?家族たちは事件をいかに受け止めるのか?被害者の傷は癒えることがあるのか?被害者と加害者、その家族、受講者たち、さらにはメディア、SNSを巻き込みながら、性被害をめぐる当事者の生々しい感情と、ハラスメントが醸成される空気を重層的に活写する、著者の新たな代表作。
おすすめポイント
- ☑生々しすぎるセクハラの実態があらわに
- ☑みんな不倫とかしすぎ
- ☑男女の,個人の価値観の違いが浮き彫りになる
- ☑読後はまあ爽やか
「どうして7年もたっているのに、(いまさらになって)」 「二人で旅行に行ってるくせに(そのあとのことを予見できたはずでは?)」 セクハラに浴びせられるこうした声、実際は苦悩の末の、時間ゆえの、勇気ある告発なのかもしれない。
生皮 あるセクシャルハラスメントの光景
セクシャルハラスメントの加害者と被害者。
この小説の登場人物はそれだけではない。
セクシャルハラスメントの別の被害者や、被害者の周りの人々、 当事者の周囲の人間
他の事例のセクシャルハラスメント
たくさんの視点で描かれるセクハラとそれを取り巻く流れ、そのリアルさに一気読みしてしまった。
抜粋
実際のところ 「神様」は圧倒的な力を持っていた。 その力を存分にふるって、女たちを組み敷いたのだ。
p.246
想像してほしい、
あなたが成功したい業界で「神様」として存在するのがもし、男で、 そして彼が女好きだったら、、、
そして彼からセクハラまがいのことをされたとしたら...
こういった事例は今現在でもどこにでもはびこっていて、構造上なくなりそうにない。
機会が過ぎれば捨てられてしまううえに、告発もしにくい。 告発をしても成功してから言うなとか、同意の上だったのだろ?みたいに言われてしまう。
かといって断ると業界内での成功はほとんど約束されない。
逆に男の立場でいえば後背に権力をちらつかせていることがわかっていながらも、暴力も恐喝もない同意の上の好意であったといえてしまう。
伊藤詩織さんと山口敬之さんの例のような事例もあることから、実際、男側からしたら反論したくなる部分も多いだろうからあまり首を突っ込めない問題ではあるが。
用語からわかるこの小説
オーバドゥ
- 意味: 高級下着のブランド
本番のために女性が奮発して付けていることが多い。
最近は男性ものもあるらしい
- 使用例
あの夜。少し前から予感はあって、だから私はその夜も、国産ではあったが、ちょっと奮発して買ったランジェリーを身につけていた
(あの当時は知識もなくて、オーバドゥなんてブランドの名前を聞いたこともなかった
p.224
おわりに
前略...)
これは僕の生きかたというか、生きるということに対しての考え方なんですよ。 このことにかんしては否定されたくない...
批判はもちろん自由ですが、議論する用意があります。
p.108
僕らから見て、「悪い」ことをしている人に対して批判はしてもいいけど、議論を前提とした”批判”が許されて、「否定」は許されない。
SNSでの誹謗中傷が後を絶たないが、このスタンスは加害者・被害者に対しても忘れてはいけない。
すこしは苦しむべき人間も、苦しめすぎてはいけない。