森づくりの明暗
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今、日本の森林は大変危機的な状況にある。国土の3分の2を占める森林の半分以上で、間伐などの手入れが不足し、ひどく不健康に荒廃してしまった。 ところが、国土や森林の面積が日本とほぼ同じスウェーデンでは、林業が国の基幹産業として機能している。大型機械をフルに使って木材を収穫し、輸出して収益をあげている。 そこで私は、当時教官を務めていた岐阜県立森林文化アカデミーの研究室の学生達と、欧州の木材生産国の実情を知るための旅に出発した。 何より感動的だったのは、徹底的な現場主義教育によって人材を養成している姿だった。 スウェーデンでは森林行政職員や大学の研究者、現場の作業者など、森林や林業に関わる者は皆、長期間実践的に現場作業の技術を学ぶ。職種や学歴による、社会的地位や収入の明確な格差もない。 日本の大学では、実践的な実習の時間が卒業までに4〜5日程度しかない。そんな大学の卒業生たちが、森林行政や研究教育の仕事を担っている。 一方、日本の現場作業者は、森林学の専門知識を学ぶ機会がほとんどない。低賃金の単純肉体労働者と位置づけられているからだ。 こんな現象は、農林業や肉体労働に対する国民の考え方の違いが原因ではないだろか。(中略) 日本では荒廃した森林を再生復活させるために、機械化やボランティアの推進、外国人の活用などが検討されている。 私は、いずれも日本の森林問題を解決する切り札にはならないだろうと思っている。 日本の森林行政機構や森林学は、現状を根本から見直し、新たなシステムを構築し直す時期に来ている。彼らが森林の荒廃を傍観するのなら、そもそもその存在価値が疑われる。 今、日本の森林に最も必要とされてされていることは、森林学の知識と現場の技術とを高度にあわせ持ち、山村の豊かな地域社会を理解して発展させる、真の森林技術者を育てることだ。 そんな人材が、地域で夢と希望を持って活躍できるシステムを構築することも重要だろう。 私は、日本人が森林を通して地域や伝統、生活や労働について考えるきっかけになればと思って、今回この本を書いた。 森を真剣に考えることは、ある意味では哲学だ。だから、意識と思想が重要なのだ。 --東京新聞「自著を語る」2006/06/15 異色の経歴を持つ岐阜県立森林文化アカデミーの教官が、研修のため学生とともにスウェーデン、オーストリアへと旅立った。そこで機械化林業先進国のうわべをまねるのではなく、思想を学ぶことだと確信する。日本独自の森林再生の道を、知識と技術の両面から考え直す本。 --「BE-PAL」2006/07(7月号)
楽天Booksより引用”
おすすめポイント
- ☑スウェーデンとオーストリアの森林について
岐阜県の林業大学校で林業について教える経験豊富な内田さんがつてを頼ってスウェーデンとオーストリアという”林業先進国”の林業ツアーに行った話。2つの国の施行方法に唸らせられるとともに、良い部分しか見てきていないのでは?とも首を傾げる部分も多々。2006年という貴重な記録になるし、読んでいても面白い。
森づくりの明暗
スウェーデンで大学の林学部に進学するためには、必ず農林航行の林学科を卒業している必要がある。
p.14
スウェーデン
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国土面積が4116万ha
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森林面積2713万ha
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国土面積の65.9%が森林
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ざっくり2500万ヘクタール
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人口900万人弱
- 大阪府の人口と同じくらい
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日本
- 国土面積3765万ha
- 森林面積は2512万ha
- 森林面積66.7%
- スウェーデンの国土面積は日本の1.1倍
スウェーデンの植生は単純
- 樹木の20種類
- かなり樹木に詳しい分類
- ある資料によればスウェーデンの樹木は30種類ともあるほど
- スウェーデンのアカマツやシラカバは幹が通直
私は、食い意地が張っている。 物事の判断基準は「面白いか、面白くないか」「食えるか、食えないか」「うまいか、うまくないか」 が一番重要だなんてホンキで思っているし、友人や学生たちにも公言しておいた
p.41
おもろい。
- スウェーデンの南部では70年生から100年生が伐期
- 北部ではさらに2,30年ほど伸びる
スウェーデンの歴史
スウェーデンの森林は産業革命以降、算出された鉄鉱石の精製に必要な薪として大量に使ってしまった。
イギリスではその時に木材を使い果たしてしまい、今では先進国の中でも最低の10%程度の森林率を誇るが、スウェーデンのひとたちは森を積極的に育てて利用する方向に途中で方向転換したために今では大量の森林が蓄積されるようになったという
スウェーデンの森林の保護
特徴的なのは一箇所に広大なエリアを設定するのではなく、細かく保護エリアを指定したものが散らばる形で存在すること
スウェーデンの所有形態
スウェーデンは官製所有の森林が10%と日本の1/4ほど
国有林の大部分を国営森林企業「スベアスコーグ」社が所有しているため、民有化された土地になっている
memo
- スウェーデン人大好きザリガニも近年は寄生虫の影響で数が減少し、アメリカからの輸入にも頼っている
- 鉄鋼生産といえば「サンドビッグ」
- トーニー・ソダーマンさん
- 国立スウェーデン農業大学のシンスカットバーグ林学部長
- かつて留学中に浅草に滞在していた
- 日本酒が好き