山と獣と肉と皮
写真家にして、一人の母親が撮り、料理してきた獣たちの「死と再生」のドキュメント。罠を掛け、犬を放って、銃で撃つ。自然の命を殺して、食べて、生きていくー長崎と佐賀の里山で狩猟者と過ごした時間、獣の死と皮革にまつわる「穢れ」の考察、そして、野生肉をめぐる思索と料理の記録。
おすすめポイント
- ☑狩猟を撮る写真家、迷える母
家族で移住してきた長崎市の近くに住む猟師のおじさんと関わりだしたことで、知った狩猟という世界 母親として、写真家としても生きる筆者が狩猟という世界とどう向き合って日常と折り合いをつけていくのか。 息子たちのど直球であったり、考えさせられる質問とともに自分も考えさせられる内容。
山と獣と肉と皮
第1章 おじさんと罠猟
人と人とが会話をすることを設計された」かのような細い路地と坂道の多い長崎市
「わかる」の語源は「分ける」
複雑な世の中の事象をひとつひとつ自分の理解できるような領分に区切っていく、分けていく。
動物の肉は季節で味が変わる。 繁殖期が始まる12月頃が一番脂がのっていて美味しい時期。
味の面でも、保存の麺でも肉を食べるなら冬が一番良い。
繁殖期が終わる2月頃にはオスは食べることも忘れてメスを追いかけ続けたために、脂がかなりおちた肉となってしまう。
登るときの足の着地点は身長に選ぶが、クダリは勢いがつくため慎重さにかけるため罠をかける狙いは下りの場所。 障害物として大きな枝を置いて足を置く場所を誘導する。
第2章 野生肉を料理する
イノシシのスネ肉料理「ラピュタシチュー」
- すね肉を2,30分ほど煮る。 ローリエや赤ワインなどがあれば入れて、沸騰させずにとろ火でキープ。アクは取る
- 人参と玉葱をみじん切りにしてフライパンで炒める。玉ねぎは多くていい
- しんなりしたら、肉の鍋に入れる
- トマト缶/ピューレを鍋に入れる
- 気分でしいたけやいんにく、しょうがチューブ、ジャムなどを入れまくる
- 好みでスパイスも少々入れる
- 3時間以上とろ火にかけて煮詰め、途中で砂糖、塩野順に加えて味を整える
- じゃがいもやたけのこ、他根菜類を入れる
- できあがり
野生の肉は抗生剤や遺伝子組み換えの飼料を食べさせられている可能性が非常に低い。 だからといって、寄生虫だっているし、加工の段階で腐らせてしまうかもしれない。
違うリスクがあるのであって、安心できるものではない。
第3章 謎の獣使い
犬を使った猟に密着した。
第4章 皮と革をめぐる旅
姫路の白鞣しの革職人を訪れた。
白鞣しの革
白鞣し革とは、薬品を一切使用せず、塩と菜種油のみで仕上げた動物本来の肌色の革のこと。一度は途絶えかけた白鞣しの技術を、現代の鞣し革職人 新田眞大氏が復活させた。歴史に裏打ちされたクラフツマンシップは、「究極=完成されていない」と話されていた。これらは下地であり、無垢であるために、あらゆる可能性を湛えている。
肉になった動物の毛皮のみを使っているし、革として使えなくなったら、土に埋めておけば分解される。
究極のエコレザーが白鞣しの革。
おわりに
もう何頭食べたかわからないほど、獣を食べてきた。 そもそもスーパーの肉ばかりを食べていkたときには ”何頭”などと思ったことはいちどもなかった。 山の獣の肉を食べるようになってはじめて、一頭や一匹と認識するようになった。 しかも、どんなに食べても消え去らない”1頭”が積み重なっていくような感覚があった。 食べてきた時間が、行きてきた時間だった。
p.231
食べきた時間が行きてきた時間であり、それは何頭もの命の積み重ねである。
こうしたことを、パック詰めの肉では実感しにくい(し、させないように、罪悪感を抱かせないようにするのが、加工会社の指名/思惑かもしれない)
狩猟、という行為はもちろん農作物の被害を減らしたり、貴重な生態系を維持していくためにも必要な行為だが、僕らが行きていくために当たり前に必要な行為である”食事”のための行為が地盤としてあるはずだ。
食事の「いただきます」の意味を噛みしめるためにも狩猟だけでなく生き物の命を奪って食べるという行為を失ってはいけないし、取り戻さないといけないのだろう。