十の輪をくぐる

著者: 辻堂 ゆめ
読んだ日: ()
本の価格: 1870
出版時期: 2020年11月26日頃
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Cover Image for 十の輪をくぐる
スミダスポーツで働く泰介は、認知症を患う80歳の母・万津子を自宅で介護しながら、妻と、バレーボール部でエースとして活躍する高校2年生の娘とともに暮らしている。あるとき、万津子がテレビのオリンピック特集を見て「私は…東洋の魔女」「泰介には、秘密」と呟いた。泰介は、九州から東京へ出てきた母の過去を何も知らないことに気づくー。
楽天Booksより引用

おすすめポイント

  • 親子三代感動系小説
  • スポーツ系のすっと来る感じ

十の輪は2つの五輪、すなわち1965年の東京オリンピックと2021年の東京オリンピックの話が折り重なる世代の話をさす。 バレーボールが得意な娘を持つ泰介の現在の話と、今は認知症になってしまい息子である泰介の介護を必要とする母、万津子が若かりし頃の話が同時に進んでいき、両者が次第に折り重なっていくかんじ、あの五輪の輪っかをブルーインパルスが描いてだんだんとすべての半円が円になり、そして五輪へと変わっていく瞬間を10つの輪で表現してくれた小説。

十の輪をくぐる

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はじめの方は泰介の態度が非常に自分勝手に移り読んでいて腹立たしくなる。 この気持ちを上手く持たせることも小説の著者の手腕なんだと今だからわかる。

万津子は熊本生まれだったが、兄弟が多い過程で高校にいかずに紡績工場の働き手として実家に仕送りをしていた。 まだわかい20代で満さんという方とお見合い結婚。

理想の生活が始まると思えたが実際はDV、放蕩癖、男女差別のオンパレードの夫。 炭鉱会社の爆発で帰らぬ人となってしまったが、、

―上を向いて歩こう、涙がこぼれないように、

いや、と万津子は思う。

上など向かなくても、もともと涙など一滴も出ない。 夫と過ごした四年間で、涙はもう尽きてしまったのだから。

満が生きていても、死んでも、どちらも茨の道だ。

それなら自分は、二人の子の母として、ひたすらに前を向いて歩こう。

ー思い出す秋の日、一人ぽっちの夜

くもり空から、ほんの一瞬、太陽が覗いた。白いタオルに映った一筋のひかりが、万津子の胸を貫いた。

p.163-164

時代は変わって大人になったが、うまく熟しきれない泰介の話。

娘にADHDの受診を勧められていざ言ってみたときから彼は変わり始めたんだろう。

周りに打ち明けるのが怖いという気持ちももちろんあるが、それ以上にせっかく娘と共有している唯一の秘密を自らの手で壊したくないという思いが強かった。

母親も知らないふたりきりの秘密があるということは、父親にとっての名誉なのだ。 ー その内容がどうであれ。

最初の理解者は、萌子。

そこから人数を増やしていくかどうかは、今後ゆっくり決めていけばいい。

p.245

言葉

  • 「罪を憎んで人を憎ます」

「泰介が迷惑かけとったらごめんね。すぐぶったり蹴ったりするばってん、悪気はなかとよ」

「よかよか。罪を憎んで人を憎ます、ばい」

p.256

おわりに

小説の本筋と関わることではないのかもしれないが、相手のことを思いやったり自分のことをよく知るっていうのがとても大切なことなんだろうと実感させる内容だった。

萌子の成長や万津子の苦楽の話もこの話では大きいが、その中でも特に泰介がおとなになってからも成長していった部分。 そしてそれに合わせて世界が変わっていくかのようにポジティブに回っていく用に感じられる部分は、この小説に限らず実生活においてとても重要なことだ。

世の中は自分中心に考えていたら気づかないことがたくさんある。 自分すらも客観的に見る。

そうすればうまくいくんじゃないかって思わせてくれる希望をこの小説は与えてくれる。