代理母、はじめました

著者: 垣谷 美雨
読んだ日: ()
本の価格: 1760
出版時期: 2021-02
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Cover Image for 代理母、はじめました
独身のまま子供が欲しい、もう不妊治療をやめたい、五十を過ぎたら、家族は持てない?…貧困と虐待から脱するため、少女ユキが始めたのは“代理母ビジネス”。葛藤と不合理だらけの“命”の現場で、医師の芽衣子やゲイのミチオとタッグを組み、女たちの自由を求めて立ち上がるー!不妊、高齢、独身、ゲイーもう“タブー”だなんて言ってられない。「子を抱きたい」人々と女たちが手をつなぐ出産革命小説。
楽天Booksより引用

おすすめポイント

  • 代理母について考えさせられる
  • 男女平等の社会の実現
  • 小説というよりも問題提起をしているかのよう

「代理母」、別の女性の子宮、母体に卵子や精子を提供し、子供を産んでもらうこと。さまざまな問題・課題がある一方で不妊に悩む人やキャリア、人生の一つの選択肢として前向きな意見を持つ人も多い。こうした問題に対してすこし今より進んだ時代で「代理母」が現実に行われた世界を想像して書かれた本。

代理母、はじめました

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抜粋

代理母たちは口々に言ったものだ。 ― 依頼主はどんな女の人ですか?優しい人ですか?

―引き受けるかどうかは、依頼主と話してから決めてもいいですか?

まさか代理母が依頼主を選別するとはミチオも考えていなかったらしく、二人して驚いたのだった。それまで私は、代理母が依頼主の家族関係や性格や生い立ちに興味を持つとは想像すらしていなかった。条件を出すのは依頼主側だけで、そこには対等な人間関係など存在せ酢、雇う側と雇われる側という主従の関係しかないと思い込んでいた。いやそんなの当然のこととして意識すらしていなかった。

p.222

小説の中の世界で「代理母」がもっと普及したらどうなるのかを想像するのは難しいけど、そして僕が代理母をする女性の気持ちを慮るわけではないが、彼女らの気持ちもわからなくもない。

せっかく生むのだから幸せな親の下で育ってほしい。

自分がつらい思いをして代理母になるという選択をした女性も少なからずいるのだから、せめて新しく苦しい子供時代を送らせてはいけないという正義感からなのかもしれない。

用語

矍鑠(かくしゃく)

「初めまして、院長の雨宮静子です」

相談室に入ってきたのは、70代とは思えないほど背筋がピンと伸びた女だった。 身長は百五十センチくらいで、体重は四十二、三キロといったところか。 「矍鑠」というのはしわだらけの老人に対する言葉であって、静子のような女には似合わない言葉だと思った。 老女問要路芋、中高年女性と言ったほうが合う。

p.92

この小説は登場人物が登場した当初の印象と誰ひとり変わらないまま終わるため、意外性は全くない。

静子さんもいいひとで祖のまま終わりすぎていた。

クッション

  • 意味: 羽毛などの柔らかいものを詰めた布団・部分

比喩的に、力、影響が加わるのを防いだり和らげたりするもの

  • 使用例:

つい先日、地方に住む依頼人からクッションだけではごまかせないと相談を受けた。 近所の人が次々に尋ねるという。

―どこの産科に通っているの?

ー主治医は誰?

産婦人科医院が地域に一つしかないとなれば、ごまかすのが難しい。

ーちょっとだけお腹を触らせてくれる? 私が妊娠してた三十年前が懐かしいよ。そういいながら、腹部に手を伸ばしてくる中年女もいるという。どこかに雲隠れするのが手っ取り早いが、そうするには理由がいる。親戚の誰かを介護するために、しばらく遠くで暮らすことになった、などとうそをついて地元を離れる依頼主もいた。

なぜ、そこまでしなければいけないのだろう。何とも住みにくい世の中だと思う。夫がタイミングよく転勤になったという運のいい女など滅多にいない。

そんな中、都市部にすむ依頼主は言った。

ー私はクッションなんか要りません。 やっぱりとかいはいいですよ。マンションの隣の部屋にだれが住んでいるのかも知らないんですからね。たとえ代理母のことを知ったとしても、都会の人は他人のことにいちいち口出ししません。万が一噂になって住みにくくなったら、さっさと引っ越せばいいし。

p.237

代理母の問題だけではない、女性の生きづらさの問題も書かれている。

そんな風にこの本を読んでいて思った。

おわりに

女性の生きづらさの理由。それはマウンティングが三すくみの関係にあるから

そんな論文が去年かおととしだかに世間をにぎわせた。

<伝統的な女性としての地位・能力を誇示する><人間としての地位・能力を誇示する><女性としての性的魅力を誇示する> の 3 つの上位カテゴリーにまとめられた。これら 3 つのカテゴリーは,ある部分では一方に勝てるが,ある部分では負けるという,膠着した三すくみの状態にあると考えられ,女性のあいだでみられるマウンティングは,優劣を決定することができず,繰り返されてしまうといえる。

お茶の水女子大学教育・研究成果コレクション “TeaPot”

女性は、1、子供を生み、育てたいが、2. 働きたいし、3. 美しくありたい。

これをすべていい具合に満たしてくれる選択肢としての「代理母」もありなのかもしれない。

いろいろと考えることが多い世の中で、代理母について深く考えさせてくれた。